摘んだままを袋に入れてあり、土がついている。
「食べる直前に洗いなさい。水に濡れるとすぐに傷んでしまいますからね」
知っている。母はいつもガスの元栓や戸締りについてもわかりきった注意をしてから帰ってゆく。こちらが承知しているのを承知したうえで、それでも何か言いたくなるのだろう。黙って頷く。
親の知り合いの苺農家某氏は、ケーキに乗った苺が食べられないという。
苺は水に濡らすとすぐに傷んでしまうのに、何日もあんなに綺麗でいられるのには必ずしや何かの薬剤を使っているはずで、不気味である。他の食品でも使われていること、人体にさして影響が無いだろうこと、知っているけど我は苺農家なり、こと苺だけは御勘弁を。人情である。
「これはね、ハッシュドビーフというのよ。ハヤシライスやビーフシチューみたいなもので、御飯にかけて食べてもよいのです」
母はタッパーにいれられたそれを鍋に移し、タッパーを洗って持って帰った。
こちらがハッシュドビーフを知っているのを承知したうえで、それでも何か言いたくなるのだろう、と思って、黙って頷いた。



