その一。小学生のときにベルトコンベアの導入はないものの、高級ではない寿司屋で食べたいくら丼。
不味いのとは少し違うかもしれない。その店では少々値の張る一品だったと記憶している。いくらは大好きなので、わくわくしながら頼んだはずだ。外は黒く中は赤く塗られた器に、御飯が隠れるほどいくらが乗って、醤油がかけられている。いくらを一度にこんなに食べるのは初めてだ。スプーンで食べたと思う。ぱくり。うまい。
しかし半分ほど食べたところで、店と同じくいくらもあまり高級ではなかったせいだろう、私にしては珍しく気持ちが悪くなってきて、後ろ髪を引かれるような思いで残してしまった。妙な甘さが濃かったような気がする。
似たもので、とろろかけ御飯も最初の一杯は美味しいのだが、二杯目を食べると気持が悪くなってしまう。
その二.地元スーパーのイベントにて無料で貰った知らないメーカーの見たこともない袋ラーメン。
このラーメンは塩味だったと思う。袋は作為的ではない感じのレトロなデザインで、今思えば賞味期限が怪しい。当時のおおらかな世の中ならば、ロハで期限切れを配っていても不思議ではない気がする。
私は拘りも見境もなくラーメンが大好きで、スープも残さず飲んでいた。当然美味を期待して箸をつけたのだが、びっくりするほど不味くて食べ切れなかった。どのように不味かったかは覚えていない。当時は本当にラーメンが好きだったし、スープも残さぬのを小さなプライドにしていたのだが、
それでも食べられなったのだから、そうとうなものだったはずだ。
現在では年のせいかラーメンを前よりは美味しく感じなくなってしまって、胃がもたれることもある。それでもあんなにラーメンを不味いと思ったことは他にない。
その三。中国物産展で買ったピータン。
卵料理なら見境なく好きだった私は、父の買った黒いピータンを前に尻込みした。何故か食欲をそそられない。一口食べて、二度と口にしなかった。本来ならスライスして少し空気にさらしてから食べるところを、それを知らずにすぐ食べてしまったのだと思うが、今でも一生食べたくないと思っている。
その四。京都の某格安ホテルの朝食。
価格の安さから、若い旅行者には有名なホテルらしい。見事なまでに部屋は狭く、大浴場という名の中浴場があった。朝食は一階の食堂とは名ばかりの、これまた妙に狭いバックルームのような場所で、決められた時間に全員揃っての気まずい食事だった。二台のテーブルをくっつけたものを囲んで、知らない連中と肘をくっつけるようにして無言の食事。逃げ出したかった。
朝食内容は、御飯に鮭の切り身、味噌汁、納豆、海苔だったと思う。不味いとは言わぬ(私はそう簡単に不味いとは思わぬ性質)が、決して美味くなった。味気ない。何の面白味もない。ちょっと泣きたくなった。
その五。大阪のとある食堂。
道路に面した庶民的な外観の店であった。年季の入った赤い暖簾が、ベテランの風格をみせる。
新今宮駅から近いところだったはずだ。この土地を知っているものなら何かしら感じるものがあっただろうが、いくらか話を聞いていたとはいえ私には初めての土地で高揚しており、気取った店ではなく、土地に馴染んだ店で何か食べようと気取ったのが間違いだった。店外にメニューが出ていてどれも全体的に安いなか、特に玉子焼き定食が驚くほど安かった。その価格の記憶に自信がない。350円だった気がするのだが、これはほんの10年ほど前の話である。
味に期待したわけではなく、こんなに安くてどんなものが出てくるのだろうと好奇心をそそられたわけだが、無愛想な中年女性が運んできたものを見た途端にがっかりした。
御飯、玉子焼き、その下に敷かれたレタス二枚、味噌汁。
その名が冠された玉子焼きは、多分メインを張るには最低限の量しかない。少量の料理に大きく余った皿の余白を魅せる高級料理とは違って、この定食の主役を乗せた白い皿は、ただみすぼらしく地を見せていた。
あとは味で勝負だ。玉子焼きなら誰が作ってもそこそこの味になる。一口食べた瞬間、350円を溝に捨てた! と思った。妙に味が薄い。何だか寂しい。味噌汁も味が薄くてちっとも美味しくない。味噌汁なんてのはただ味噌を溶いて熱々で飲めば、私が作ったのでさえ美味しい。それがなぜこうも無感動な味なんだろう。これは病院食か。
御飯にも何の魅力もなく、ぼそぼそとしていたように思う。一番美味しかったのはレタスだった。うれしいマヨネーズ付。
醤油で味をごまかしながら、寂しい気持ちで食事を終えた。安物買いの銭失い。会計をする私は悲しい顔をしていたと思う。
大阪には一泊した。田舎者の私には、驚きの連続となる一泊であった。
その六。イレイザーヘッドを観ながら食べた昼食。
イレイザーヘッドはビデオで何度も観た映画で、観るだけあって好きな映画なのだが、おたふくの女が天井から落ちてくる大きなヒルのような何かを次々と踏み潰す(それも少し恥らって)場面だけはどうにも気持ち悪くて、何度目かでこれを観たときに食べていた昼食がすごく不味くなった。



