The Show Must Go On

心に届く友情の映画『フォックスキャッチャー』を思い出していたら、私が明かしてきた友情物語に、まだブログに書いていない一面があったことに気付いた。記しておきたい。

過去の記事
http://qazwsx.seesaa.net/article/474747947.html



私に友達がいないことを暴露するあの相関図は惨めな現実であり、直視したら今までのようには振舞えないし、かといって「友達」ABと断交して孤立することもできない。そこで私は、相関図の内容を読まなかったことにしたのだ。

これまで友達としてABと親しくしていた私は、相関図公開後、「私は友達と思っていたが友達ではなかった人」ABを相手に「相関図を知らないままでいるので今までどおり友達だと思っている人」のふりをするようになり、他の人には「友達と思っている相手が友達だと思っていなかったことを知らない人」のふりをした。
これは学校生活が舞台であるかのような奇妙な感覚を生じた。何かの本の挿絵にあった中世欧州の舞台で、道化をしている私を連想させた。道化役を演じているようでいて、道化そのものであった。


あの相関図内容が誰にまで漏れているかはわからない。
だから、「友達」AB含む同学年すべてを対象に、こいつは相関図を知っているのか? と確認する術のない疑いを抱く私は、目の前の相手にすべてばれている可能性を頭に置きつつ、ABと友達のふりをするのであった。
今思えば、潜入組織の誰かに存在を気付かれてしまった秘密捜査官のようである。
なんとも虚しい任務であるが、そうするしかないように思われた。

映画感想

ビジター
話にも設定にも乗れず。


プラネット・テラー in グラインドハウス
悪趣味を前面に押し出しすぎて、私にはちょっと合わなかった。


サプライズ
新居に集った人々を謎の殺人集団が襲う。これはサプライズでしたね。下調べせずに観るのが正解。


フォックスキャッチャー
誰も信用できず満たされぬ寂しいお金持ち。レスリングの実力はあるが鬱屈で凝り固まった弟。歪だが一欠けらの美しさがある友情。
すべてに満たされた正しいお兄さんが二人を無自覚に追い詰める。
私は歪んだ寂しさに感情移入して観てしまうが、金も力もない私が感情移入すること自体が歪である。


オーメン
神父が話すたびにグレゴリーペックが真顔でブザーを鳴らすのが、「不正解!ブッブー!」って感じ。
音楽が良いけど、求めていたオカルトではない。
最初の死に方が良過ぎて、ハードルが上がってしまった。


ザ・ボーイ~人形少年の館~
続編製作が発表されている。どうやって話をつなぐのか、という観点から興味はある。

2020-07-29

広く明るい会場だが、学校の教室。放課後。
残っているのは私とE君。
教室後方に大きな扉があって、そこから執事が出てきてE君の黒いダッフルコートを主人に譲ってくれと申し訳なさそうに言う。E君は譲らない。執事は苦しい表情で扉の中に帰った。
これは何事か起こるな。
E君と帰ろうとすると、扉から苛立った例の主人が現れてE君のコートにケチをつけて帰っていった。扉の中は大袈裟な社長室だった。

外は雪の白と夜空の黒で二分されていた。
明日からあいつが嫌がらせをしてくるだろう。味方についてくれそうなのが何人かいるから、何とかなるだろう。
職員室に行っていた2人と合流する。Nさんと黒人の少年(誰だ?)
時折雪が降ってくる。雪は手の平より大きな氷の結晶でふわりと降ってくる。

私は黒人の少年と二人で町の案内がてら寄り道している。
閉店間際の商店に寄るつもりだったが、時間が遅すぎてシャッターを閉めているところだった。
小腹が空いたところでラーメン屋に通りかかったが、金がない。少年は奢ってくれると言うが、もっと空腹の時に奢ってもらうことにした。

2本の線路が走っている。駅のホームのように線路は凹んでいて、私たちはホームの縁にあたる部分を歩いている。すぐ左はフェンス。道なりに歩いていたらこのフェンスの内側を歩くことになっていた。
一人ずつ歩くには十分な幅で、線路までは2mほどある。
前を行く少年と話をしながら歩いていると、少年の体が横に跳んで、線路に上半身を乗せる形で仰向けに倒れた。少年の歩いていたあたりにフェンスから小さなでっぱりがあり、それに躓いたらしい。
その倒れた様子が何か不自然だが、どこがおかしいのかわからない。少年の腹部から血が滲み出して、やっと気付く。腹部で切断されて体が2つに分かれていた。綺麗な切断面をしている。
なぜそうなる。
少年が呻いた。助からないのにまだ生きているのが可哀想だ。
見ているだけにもいかず、119番へ通報する。
出た相手は「○○さんの件ですね、ええ、大丈夫ですよ」と言う。こちらの話を聞かず、誰かと間違えて○○さんの話をしてくる。
相手が勘違いに気付いてくれた。少年の体が僅かに動いている。
私は通話しながら、少年の体を線路からどかすべきか、鉄道にも連絡しないといけない、と考えていた。

萎びた風船


 空き家の一軒家が3軒並んでいる。そこの塀に沿った道を通る時に騒がしくしていると、真ん中の家の門を過ぎたあたりで後ろから頭を小突かれる。


 校内で囁かれる噂話で、誰が体験したのかと問えば、誰かは知らないけど上級生だとか卒業した先輩のクラスメイトが体験したらしいとか、要は出所不明なのである。学校生活に彩を添えるための怖い話であり、あの学区外の空き家まで騒ぎに行って真相を確かめる気なんて誰にもない。

 ケイタは違った。仲間内で怖い話を披露しあった際にこの話が出て、誰に求められたわけでもなく、自分が確かめに行くと言い出したのだ。仲間はその宣言を讃えたが、その場限りの冗談で盛り上がったにすぎない。だが、盛り上げられたケイタには、是非行って確かめねばならぬという妙な使命感が芽生えてしまった。何事か体験すれば武勇伝を得るし、無ければわざわざ確かめに行った面白い奴となれる。


 休みの日、ケイタはバスを経由して件の空き家まで行った。集落から少し離れ、山に入った広い道路の脇にある。道に散った落ち葉で、人も車も滅多に通らぬとわかる。静かなところだ。
 まずは無言で3軒前を観察しながら通り過ぎる。どれも古い家屋で無人が久しい寂れ方をしているが、真ん中は荒廃の域に入っている。門柱はあるが扉が無く、草むらを挟んで閉まった玄関が見えている。まだ昼間であり、草木が陽に照らされて風に揺れる様は、人間無くとも自然在りと生命力を輝かせているようで、あまり不気味な感じはない。
 無言で二往復して異常が無いことを確認し、さて本番となったところで少し陽が翳った。風も止み、草木の揺れる音が消える。独りで空き家の前にいるのが、不気味なことだと急に気付く。
 わあああ、と声に出してみる。思ったよりも声が細い。改めて大きく声を出してみるが、反響しない声は空間に吸い取られているようで、心細さが増した。
 わあ、わあ、わあ。うわああ。いつまでもこうしているわけにはいかない。使命を果たさねばならない。

 ケイタはわあわあ言いながら1軒目に差し掛かった。視線を2軒目の門から外せない。わあ、わあ、わあ、わぁ……。2軒目の玄関が見えた時、不気味の雰囲気に気圧されて、声が小さくなった。あの玄関が開くんじゃないかと心のどこかで思っていたが何事もなく、視線を進行方向に向けて改めてわあわあと声を大きく通り過ぎた。
 通り過ぎて数歩。わあわあ、わ。後頭部にコンと何かが当たった。そこで声も思考も止まって、口も閉じずに早足で3軒目を通り過ぎた。通り過ぎて暫くしてから意を決して振り返る。何もない。口を閉じた。


 頭に手をやる。怪我はないが、小突かれたところが少しジンジンする。噂話の通りだ。本当だったのだ。これは凄いぞ。まだ陽は翳ったまま、風は止んだままであったが、無人の家屋前で何者かに干渉された不思議が、不気味を上回った。小突かれた直後は混乱したし本当は怖かったはずだが、その恐怖もだんだんと湧き上がる高揚に塗り変わってゆく。
 仲間にこれを話すところを想像する。だが、コンとされただけでは話が弱い。コンが何かわからないでは、わざわざ確かめに行ったのに中途半端だ。仲間は内心、勘違いか噂をなぞっただけの作り話だと思うだろう。信じてくれても、結局逃げ出した臆病者だと思うだろう。コンとは何か。せめて見ておきたい。
 もう一度通ろう。どうせ帰るには引き返さなければならない。今度小突かれたらすぐに振り返るか。何歩目で小突かれたっけ。振り向くより前に隠れるだろうか。あ。名案を閃いた。

 ケイタは後ろ歩きで出発した。わあ、わあ、わわわ。何だか少し可笑しくなってくる。これだけやれば、必ずや一目置かれるだろう。なんて馬鹿なことをしているのだろう。こんなこと誰もやってない。わあわあわあ。1軒目の塀から2軒目の塀に替わる。もうすぐだ。ひひひ。もしかして、見えないところからちょっかいを出す奴なんて、見られていたら何も出来ないんじゃないか。わはは。



 錯乱していたケイタは保護され、入院して治療を受けた。鎮静剤で落ち着いてからのケイタは、自分がこうなった浅墓さを冷静に考えることができていた。普通に歩いていて後頭部を突かれるのだから、後ろ歩きならば顔を突かれるのは道理である。突くのが顔の何処になるかも予想できた。なんて馬鹿なことをしたのだろう。悪いのは自分だ。何が起こったかは把握しているが、薬の作用なのか、幸いにも自分が見たものは思い出さずにいられた。思い出したくないし、こんな軽薄なことは二度としないので、もう絶対に見ることはない。
 硬い顔をした両親立会いのもと、医師から左目の失明を説明された時も驚きはなかった。そんなこと、あの時の感触でわかっていた。

 眼帯を外す日が来た。左目の状態は聴かされている。今の顔を見るのは怖いが、自分が悪いのだと十分に反省しているので、冷静に受け取める自信もあった。
 医師が眼帯を取る。差し出された鏡を手に取り、自分の顔を見る。
 わあ。わあ。わああああああああああああああ。
 体が強張り、大声で叫んでいた。医師と両親が慌てているのが視界の端に映る。動きはやけにゆっくりしていて、彼らの声も、自分の声さえも遠い。あの時のように。


 ―――後ろ歩きで2軒目の門柱を数歩通り過ぎると、門柱の影からそれは出てきた。まるで風船を膨らませているように、萎びた形がぷくりぷくりと盛り上がってゆく。時間が引き伸ばされたかのように自分の動きがゆっくりとなり、声が妙に遠くなる。
 形は、人になっていった。門柱から上半身を乗り出した老人。ふらふらと膨らみきらない風船のような、萎んだ老人の半身が伸びてケイタに迫る。干物のような顔だと思った。何故か。目がそうだ。老人の丸くて真っ白な両目は、焼き魚の白い目のようだ。その目に魅入られて、気付くのに遅れた。いつの間にか老人は右手を突き出している。人差し指が立てられた右手。爪が伸びた指先はそのままケイタの―――。


 鏡に映ったケイタの左目は、あの老人そっくりの、焼き魚のような白い目をしていた。

漫才師



A「……そういうわけでね、人類は絶滅すべきですよ」
B「そんなことないだろ」
B、バズーカ砲でAを撃つ。Aの頭が吹き飛ぶ。
青ざめるB(やりすぎた!)
A「話変わりますけど、僕おにぎり好きなんですよ」
A、首の気道から声が出る。
B(良かった! 生きてる!)
A「この前もおにぎり買って食べてたら、中からアタリって書いた棒が出てきて」
B「アイスじゃあるまいし」(生きててありがとう)
B、泣きながらAの尻をやさしくポンと叩く。
A「お店に戻って、アタリなのでもう1個くださいって棒を出したら、ホントにうちで買ったやつですかって言われて」
B「疑り深いね」(Aが生きててホントにうれしい)
A「でも、わかってもらえてね。アタリと引き換えにジャムパンもらいました」
B「良かったあ。ホントに良かった。俺すごくうれしい」
A(そこは「おにぎりじゃないのかよ」では……?)
B、Aの肩を抱いて嗚咽。
観客も泣きながら拍手。

次の組が舞台に上がり、客席を沸かせている。
劇場裏の薄暗がりで二人きりのAB。
B「俺な、お前とやりたい漫才、まだまだあるんよ」
A「うん」
B「俺の漫才はお前の呼吸で考えてるから」
A「うんうん」
B「頭作れる博士探し出すからな、絶対」
A「ふふふ」

街の灯りでぼやけた夜空に星は見えない。
見えないだけだ。星はある。




父ちゃん母ちゃん、頑張れ!


ない。ない。どこへやった。思い出した。高橋に貸していたんだ。
2日前、A組の高橋に理科の教科書を貸したまま忘れていたのを思い出し、圭一は高橋に電話を掛けた。かなり呼び出し音が鳴ってから高橋が電話に出た。
「理科の教科書貸してただろ、あれ明日授業あるから持ってきてくれよ」
「ああ、そうだったな。悪い、風邪ひいちゃって明日は行けそうにないんだ。取りに来てくれ」
ひどく元気のない声で言う。体調は相当悪そうだ。
圭一は気が重くなった。明日はどうしても自分の教科書が必要なのだが、高橋の家には行きたくない。
高橋の家には……。


友部、長谷川、僕の3人で、高橋の家へ遊びに行ったことがある。
玄関の呼び鈴を押すと戸がサッと開いて、待ち構えていたように高橋の母ちゃんが立っていた。
エプロン姿。ずんぐりとした体型で髪の毛はモジャモジャ。顔は革製品のような生気のなさで目が暗い。
異様な迫力に圧されて凝視してしまったのが気分を害したのか、先頭にいた友部が金槌で殴られ家の中に連れ込まれ、扉はサッと閉まった。
引きずる音が遠くなり、がたごとした音が止むまで、僕らは動けなかった。
気を取り直して再度呼び鈴を押すと、少し間があって今度は高橋が出てきた。
「あれ、さっき入ったんじゃなかったのか? まあ、上がってくれ」
「あの、友部がお前の母ちゃんに連れて行かれたんだけど……」
「そうか、うーん、だめかもしんないね」
ははは、と力なく笑って俺たちは家に上がった。家の何処からか「ぎゃああ」と悲鳴が聴こえた。友部である。
「俺の部屋2階だから」
高橋、長谷川、僕の順で階段を上る。高橋は階段をまっすぐ上らず、時折横に逸れながら上る。何故だろうと思いながら僕らはまっすぐ上る。
「うぐっ」
長谷川がしゃがみ込んだ。
高橋がしまったという顔をして言う。
「ああ、そこ釘が出てるんだよ。建て付けが悪くて……」
長谷川が押さえていた足を上げる。上を向いた釘先が血に染まって現れた。足の甲で見事に踏み抜いてしまったらしい。

「あの釘って、お前と親は踏まないの?」
高橋の部屋で足にタオルを巻きながら長谷川が訊く。
「何度か踏むと体が覚えて自然に踏まなくなるよ」
「へえ、そんなもんかあ」
つい警戒して部屋を見回してしまう。よし、どこにも釘は出ていないようだ。
高橋の部屋はごく普通だ。日当たりもいい。高橋が窓を開けると。気持ちのいい風が入ってきた。
「そうだ、遊ぶ前にちょっと数学で教えてもらいたいのがあるんだ。そっちの授業はうちより進んでいるだろ?」
高橋が開いた教科書のページは、僕たちが昨日やったばかりのところなので、よく憶えていた。
高橋を挟んであれこれとレクチャーしていると、前触れもなく出入り口の襖がスパンと開き、高橋の母ちゃんが立っていた。
「おじゃましてます」
慌てて挨拶する。高橋の母ちゃんは長谷川が血染めのタオルを巻いているのを見て、目が笑った。
そして机にジュースと皿を置いて部屋を出た。出る前にもう一度血染めのタオルを見て、笑った。

皿に乗っていたのは唐揚げだった。
「揚げたてのうちに食べようぜ」
高橋は躊躇なく手を伸ばしたが、僕と長谷川は初めて見る唐揚げなので少し戸惑った。
鶏の骨付き肉にしては細く長いし、爪も付いている。あと平べったい肉が2枚。パーツを数えてみると、ちょうど1人分。
これって、もしかして。いや、まさか。僕と長谷川は同じ疑惑を抱いたのを目で確認したが、美味しそうではあるので手を付け、軟骨までコリコリと食べた。揚げる前に下茹でするのが美味しくするポイントだそうで、味はおやつ用に薄くしてある。
「これ、肉が少ないだろ? おかずにすると食べるのに時間掛かって他が冷めちゃうから、うちではおやつにしてる」
皿は2枚重ねになっていて、1つは骨出し用だった。
僕はふと気になったことを尋ねた。
「高橋の母ちゃんってさあ、やっぱりスーパーへ買い物に行くの?」
「そりゃ、行くに来まってんじゃん。自転車で行ってるよ。ああ、あのエプロンしたままでってことか? そうなんだよ。子供の頃は気にならなかったけど、今はちょっと恥ずかしいんだよなあ」
「ふうん」
僕はエプロンの着脱よりも、あの高橋の母ちゃんという存在がスーパーで買い物をすること自体に奇妙な気がしていた。見た目は怖いが、意外にもしっかり家庭的である。
後で知ったが、やはり友部だった。

数学を済ませて、ゲームに興じた。高橋は部屋にゲーム用の古いテレビを持っている。羨ましい。
「ちょっと待って。冷えてきたから、窓閉めるよ」
長谷川が立ち上がって窓に寄る。
「へえ、いい眺めじゃん」
窓から首を出した長谷川に高橋が声を出したのと、窓が閉まったのは同時だった。
外からボトンと落下音が聞こえた。窓に寄りかかる姿勢をした長谷川の首から血がだくだくと流れ出る。
「突然閉まるんだよ、この窓」
高橋がしまったという顔をして言う。
「……僕、そろそろ帰るよ」
僕は注意して階段を降り、家を出た。
高橋と一緒に高橋の母ちゃんも玄関で見送ってくれている横で、庭に長谷川の首が落ちていた。



友人2人を失った高橋の家に行くのは、圭一には辛いことだった。
しかし教科書は要る。深いため息をついて、自転車で高橋の家へ向かう。
近くで消防車のサイレンが鳴っている。そして、薄暗い空の前方が赤く明るい。あの辺りにあるのは高橋の家だ。怒号も聞こえてくる。圭一は自転車のスピードを上げた。

ごうごうと燃え盛る高橋の家の前は、消防隊と騒ぐ人々とそれを抑える警察で混雑していた。騒いでいる人々は怒ったり喜んだりしており、燃える家に石を投げつける人もいた。人混みの中に高橋の家族の姿は見あたらなかった。教科書を返してもらえる状況ではない。諦めて帰るしかなかった。
後日のニュースによると、あの火事は高橋一家を日頃から快く思っていなかった近所の住人たちが放火したものだった。家は全焼。焼け跡の2階からは遺体が1つ、1階では5人分の遺体が同じ場所で見付かった。2階のものは高橋、1階のものは身元不明で、火災前に既に死亡して解体されていた形跡がある。
高橋の両親は火災当時、親戚の法事に出ていた。その後の消息は掴めていない。


1ヵ月後、高橋家近所の住人が次々と惨殺される事件が起こった。事件を受けてホテルへ身を隠したり転居したりする人が続出したが、そこすらも襲われて、犯行は続いている。
圭一は教科書の顛末を教師に話すと、叱られもせずに予備の教科書を貰えた。高橋の家が放火されたのは無理もないと思うし、辛い思い出のある家だったが、高橋の死を差し引いても、放火した人々が何故か憎らしかった。高橋の父ちゃん母ちゃん、頑張れ! と思う。あの唐揚げが美味しかったせいかもしれない。




バードンは人類を愛している。


ジェニーは恋人のアレックスが近々出稼ぎから帰ってくるのを待ちわびていた。ところがもうすぐ帰ると連絡があって以降音信不通となり、予定の日が過ぎても帰ってこない。職場に問い合わせると、契約通りの仕事を終えて問題なく出て行ったという。
ジェニーはアレックスの住む部屋を訪ねるべく、車で数日かかるその町へ出発した。
人気のない田園を走っているうちに暗くなってきた。あと数時間走っても町にも宿泊施設にも着かない。道路脇での車中泊では治安が気に掛かる。
道路脇の廃屋敷地で車中泊しようとするが、明かりのない窓にカーテンが揺れたのを見て、住人に許可を取るため玄関をノックする。返事はなく、鍵も掛かっていなかった。ドアを開けてライトで照らすと、椅子にもたれた一体の骨を見つける。

全身が剥き出しの骨。子供のように弱弱しい骨格でやや褐色、ところどころに赤黒い肉がへばりついている。上半身しかなく、手首から先もない。頭は大型鳥の頭蓋骨。

「こんばんは」その頭蓋骨から声がした。
ジェニーは驚きこそしたが、不思議と怖くはなく、親しみさえ感じた。骨は手のない腕で器用に卓上の電気ランタンを灯した。
朝まで車を泊めたいと申し出ると、骨は家で休むよう勧めてくれた。
ジェニーはその誘いを受け、ベッドに入るまで奇妙な骨と話をした。骨はバードンと名乗った。

骨は"少し違う宇宙"から来た異星人だった。
固体名を持たない種族のため、地球で或る人が付けてくれた名前がバードンだ。
この姿は欠損しているわけではなく、バードンの種族はこれが完全であり健康である。バードンは宇宙を旅していて地球にやってきた。地球は自然や文化文明が珍しい発展を遂げた星で興味深いうえに、人類社会には潜り込みやすい特性があった。バードンが常時出している波動が人類の恐怖や警戒を解く効果を持ち始めたのである。
その波動が有効なのはバードンの周辺だけで、効果の強弱には個人差が大きい。やがてバードンは人類が無意識に放出する波動から、相手が友好的か利己的かといった性質を読み取れるようになり、友好的で口の堅い相手のみを選んで接触できるようになった。

「私はその波動の御眼鏡に適ったのね。異星人と知り合えるなんて光栄だわ」
「人類社会のことを知るためには、人類から話を聴くのが重要だ。それも私の事情をわかった相手であれば、より深く話してもらえることもある。貴方と知り合えて私も嬉しい」

ジェニーはバードンから訊かれて世間話から社会情勢、自分の趣味まで話した。バードンは最新の社会情勢や世間一般についての知識はラジオから得ており、独自の多角的な視点も持ち合わせていた。ジェリーが答えに窮する問いかけも度々あった。


夜が明け、ジェニーは買っておいたベーコンサンドで朝食を済ませた。バードンにも勧めたが、バードンは食事が必要になるまでにはまだ時間があると言って食べなかった。出発前、バードンは尋ね人が見付かるよう祈ってくれた。
町に着いてアレックスの行方を捜したが、部屋は引き払われており、手掛かりは無かった。もしかしたら行き違いでジェニーの部屋に帰っているのかもしれない。帰っていなければ警察に届出しようと決め、ジェニーは町を出た。


帰りにもバードンの家に寄った。ジェニーは顛末を話すと気持ちの糸が切れて、アレックスに会いたいと泣いた。バードンはジェニーの持っていたアレックスの写真を暫く眺め、「そうか」と言った。
「ジェニー、合図するまで少し後ろを向いていてくれ」
ジェニーが後ろを向いていると、微かに何かが動く音、やがて引き出しを開ける音、衣擦れの音がした。
「もういいよ」
ジェニーはその声に驚く。振り向くと、声の主のアレックスがそこに立っていた。
「僕はね、少しの間なら最後に食べた人類の姿を自分に復元できるんだ」
話し方も仕草も微笑みもアレックスではあるが、どこか少し違う。
「アレックスも車でここに立ち寄った。僕はアレックスと仲良くなれた。色んな話をして、とても楽しかった。その後、僕は食事が必要だったからアレックスを食べたんだ」
「仲良くなれたのに、食べる、……殺すことが出来るの」
「僕の種族はね、種の全体を愛することと特定の固体を愛することに大きな違いがないんだ。だから固体を愛しても、それを殺して食べるのにあまり抵抗がない」
「……わからない。アレックスとは仲良くなったんでしょう。アレックスが食べてくれなんて思うはずがない! それをどうして!」
「君は動物が嫌いかい? あのベーコンサンドに使われた豚は、食べてくれと思っていたのかい? 人類の情理は理解している。だからアレックスにも君にも受け入れがたいことで済まないとは思う。だが、君が動物を愛しつつベーコンを食べたように、僕も人類を食べる」
「何も、人間を食べなくても……」
「豚も他を食べてくれと思うだろうね。それに僕の波動は、食べた種族と同じ種族への効果が強まるんだ。地球で人類を食べるのは、生活の上でとても役に立つことなんだよ」
ジェニーは悲しみも怒りもしているが、恐怖心がまったく沸かなかった。波動のせいだ。だが人類を食べているからという説明の通りとは思わない。食べられたのがアレックスだったからこそ自分は恐怖しないのだ、と確信していた。
「私のことも、食べるのね」
「そうだ」
「獲物を逃がさないための、まだ話していない能力があるんでしょ」
「もちろん」
「ひとつだけ、お願い。骨の姿で殺して食べて。……アレックスは人間を殺して食べたりしないの」




バードンは人類個人と知り合ってから短期間のうちに殺すようにしている。いつどんな形で自分の存在を他に明かされるかわからないからだ。だが、食べてからの付き合いは長い。
議題になった時事問題に、勇ましい軍人のアシュリーは強硬論を唱える。大学生のノエルが反論する。後輩のエディが加勢する。声の調子が高まる3人を、温和なジョイスが宥める。フランクが余計なことを言う。酒飲みのビリーは議論に関心がない。ダニエルがオルガンを弾きはじめ、ニコルが踊りだす。ベティとカルロがラザニアを運んできて、窓越しにそれを見たマーティとジョージがボール遊びをやめて家に上がってきた。
バードンは両腕を挙げて皆の注目を集めて切り出す。
「皆、聞いてくれ。新しい友人が増えたんだ。さあ、入ってくれ」
ドアが開いて入ってきたのはジェニーだ。
奥のソファーに座っていたアレックスが跳ね起きて駆け出し、二人は抱き合う。皆が祝福する。

バードンは一人の部屋で夢想する。バードンは人類を愛している。


バードンの話

20分ほど寝入ってしまった間に観た夢は、映画のようだった。私がまったく登場せず、ひとつの物語がきちんと完結する珍しい夢で、すぐにあらすじをメモに残した。
ラブクラフトの小説「ナイアルラトホテップ」は夢で見たことをほぼそのままに書き起こしたものだというが、私の夢はそのまま書き起こすだけでは物語の情感再現不足甚だしく、物語らしい道筋を整え、少し展開を変え、多く説明を加えることでどうにか形になった。

セッション

事前情報からフレッチャーが威圧的狂人教師だと把握しているので、序盤のフレッチャーの柔らかい態度や主人公ニーマンの調子乗りぶり、分かりやすいヘマに顔が強張る。だが、これは狂気に追い詰められてる被害者の話ではない。ニーマンが結構調子こき野郎なので、いくらいびられても観ていてそれほど辛くないのは救い。フレッチャーは『フルメタルジャケット』ハートマン軍曹とは違い、職務や信念以外の私情を含んでのいびりだと感じる。破れ鍋に綴じ蓋という言葉が浮かぶ。
説明には「ニーマンの精神はじりじりと追い詰められていく」と書かれている。常人ニーマンがフレッチャーによって具合を悪くされてゆく、という筋になっているのだと思う。お父さんと映画を見に行き、気になる女の子の前ではもじもじしてしまう、という序盤がニーマンの常人ぶりの描写だと思うが、あまり印象に残らないので最初からちょっと問題ある奴に見える。
狂人と問題児の破れ鍋に綴じ蓋スリラーで話は進み、どこに着地するのかと思ったら、最後は『ピンポン』(アニメも素晴らしかった)のペコ対ドラゴンを思い出す二人の世界系エンドです。
聴衆もバンドメンバーも過去も善悪も今この瞬間関係ない、俺たちはわかったんだよな、今通じ合っているんだな、俺たちはわかっているんだよな。破れ鍋に綴じ蓋が恩讐の彼方に辿り着いた。

これは音楽映画ではない。熱血でも教育でもスポ根でもない(潰すための指導に追い詰められての猛練習)。彼らの技量が一流であるかも実は関係ない。人物への感情移入は不要。孤立した歪な二人が、狂おしい情念で紆余曲折(話運びの歪さ含む)を経て、思いもかけず余人とは辿り着けない境地に至る映画。
私はそう思っているので、音楽描写がどうのこうのという批判は核心を外したもので、そこでこの作品の評価を定めてしまうのは残念なことだと思います。
私は論語が好きです。論語は孔子の道徳倫理を称え規範とするための書物ではなく、孔子を巡る人間ドラマこそに核心があると思っていますが、世間ではそう思われていません。中島敦は孔子と子路の物語『弟子』を著しました。彼は論語にドラマを感じたはずです。世間の無理解を感じるたびに、私は「俺と中島は、わかっているんだよな」と思っています。
そういえば、中島の『名人伝』には、弟子が師に邪念を抱いて命懸けの勝負が発生し、それが入神の技に至り、死闘の直後には相抱いて涙を流す件がある。古今東西普遍的に、その世界は在る。

大事なお話です

そこの貴方!地球上に人間は自分ひとりしかいないと思っていませんか?
甘い!!大きな石ころの下、看板の裏側、屋上や戸棚の中……。
実は、色んなところに人間が隠れているんです!!!
貴方から見えないところで、貴方が寝ているところで、温泉に行ったり浜辺に座って潮騒に包まれたりと、みんな羽を伸ばしています。
放ってはおけませんよね!!!!
【【[(この超音波観音像なら、彼らを弱らせることが出来ます)]】】
お念仏は1日1回でOK。
全方位に放射される清らかな超音波が確実な効果をもたらします。
だから、やるしかない!!!!!